学校心臓検診は昭和48年の学校保健法施行規則の一部改正によって義務化されましたが、その実施方法は各地域ごとに自治体に委ねられています。その目的は心臓病の発見、治療という医療的検診を重視したものであったが、現在では小児心臓外科手術の進歩により、日常生活では大きな支障がでない程度まで治すことができるようになり、今後さらに先天性心疾患の術後の児童生徒の入学が増えてくることから、心臓手術後例の管理を中心に不整脈、心筋疾患の発見とその生活指導が主眼となってきています。また、最近ではQT延長症候群やブルガダ症候群など新たな疾患も加わってきました。学校心臓検診における、児童、生徒の生活指導は、心臓疾患を早期に発見し、突然死の危険のある心疾患児に対しては適切な運動制限を含む管理を行い、突然死を予防することは最も重要であるが、学童期に健やかな心身の発育、発達を遂げるためには身体運動は必要欠くべからざるものであり、過度の運動制限を課することには慎重でなければならない。たつの市の児童、生徒が安全で有意義な学校生活を送られるように、かかりつけ医、学校医、学校現場、医師会、保護者が情報を共有しフォローアップしていくことが望まれます。
平成17年のたつの市合併に伴い、児童、生徒数が大幅に増え、従来のシステムでは対応が困難となったため、学校心臓検診委員会を設置した。
(1)心電図判定 小児心電図専門委員会などが作成した学校心臓検診二次検診対象者抽出のガイドライン(日本小児循環器学会雑誌 2019;35:S3.1から)の判定基準に従って行い、A群を二次検診対象者として抽出します。(学校心臓検診の実際 令和2年度改訂 p27〜36)
(2)二次以降の進め方 二次検査医療機関で必要な検査を施行する。(学校心臓検診の実際 令和2年度改訂 p10〜12)
(3)指導区分の決定の目安 学校心臓検診研究委員会などが作成した判定基準に従って行う。心電図判定会議では、心臓二次検診結果報告書の内容を検討し、必要であれば疑義紹介を行なって、適切な指導区分を決定することが重要です。(学校心臓検診の実際 令和2年度改訂 p109〜123)
◎基礎的心疾患を認めない不整脈(学校心臓検診の実際 令和2年度改訂 p114〜118)
各委員の小学校・中学校の割り当て

令和6年度 学校心臓検診まとめ(たつの市、太子町)
精度管理の運用及び管理指導区分判定における申し合わせ事項
当会の学校心臓検診が精度高く実施され、よりよい学校心臓検診システムを構築するべく試行錯誤しながら協議を重ねて来ました。教育委員会との申し合わせや運用上の協議事項をまとめましたので、ご確認いただき、心電図判定、指導区分判定にご利用ください。
平成19年度
(1)心電図判定で、右軸偏位、左軸偏位のみでは抽出しない。
(2)心電図判定で、不完全右脚ブロックは、QRS幅<0.12秒かつR’>R(V1かV2)があり、かつR’V1≧|SV1|の場合のみ抽出する。
(3)心電図判定で、不完全右脚ブロックは、時に心房中隔欠損症などが潜んでいることがあるので、二次検診では、必ず心エコー検査を実施してください。(心エコー検査を施行せずに「管理不要」としないで下さい)(心エコー検査を施行せずに「管理不要」としないで下さい)また、中学校1年時に不完全右脚ブロックをで二次検診に抽出された生徒は、小学校1年生でも不完全右脚ブロックを指摘され、その時点で心エコーが実施され異常なしで管理不要とされていても、再度心エコーを実施してください。小学1年時では心房中隔欠損症の診断がつかなかった症例で、中学1年時に心エコーを再検され心房中隔欠損症の診断されることも多い。
(4)川崎病は、5年間のフォローを基本とし、発症後5年以上経過し特記すべき理由がなければ、主治医と保護者の協議で管理不要とします。
◎川崎病罹患児管理の目安(学校心臓検診の実際 令和2年度改訂 p118〜123
(5)QT延長症候群はQTc≧0.45(但し、心拍数≧75は、QTc≧0.50 とする)で抽出する。但し、心電図自動判定は解析プログラム(フクダ電子)によるため、QTc≧0.46(但し、80≦心拍数≦100は、QTc≧0.47)で抽出されている。指導区分の判定は失神歴、家族歴のないものは、コンセンサスが得られれるガイドラインができるまでは学校医または二次検診施設の判断に任せる。
(6)WPW症候群は、心筋症やエプスタイン奇形、心房中隔欠損症などの先天性心疾患に合併することがあるため、初めての場合は、心エコーを実施してください。今までに発作の既往がなくても初めての頻脈発作にても死亡した症例の報告(姫路医師会)がありますので、「管理不要」ではなく、E(可)でフォローとする。複数年のE(可)管理でもかまわない。
(7)心室性期外収縮は、運動負荷(マスター等、ホルター心電図で代用可)を施行して指導区分を決定してください。異常なければ、E(可)フォローとし、長期観察で変化なければ、管理不要としてもよい。異常なければ、E(可)フォローとし、長期観察で変化なければ、管理不要としてもよい。
◎基礎的心疾患を認めない不整脈(学校心臓検診の実際 令和2年度改訂 p114〜118)
(8)心電図判定で、V4からの陰性T波は、ガイドラインでの抽出の対象となっており、二次検診では心エコー検査を必須とする。しかしながら、心電図検査を施行する際に胸部誘導の電極を付ける位置によるものと考えられる症例もあるため、医療機関での再検にて、正常心電図の場合は、心エコーを施行しなくても「管理不要」と判定して頂いてもかまいません。
◎心電図検査の実施における精度管理について
学校心臓検診において二次検診対象者を精度高く、適切に抽出するためには、判読に耐えうる正確で読みやすい心電図を収録してもらうことが大切である。以前より、V4の陰性T波などの心電図異常が一部の学校でたくさん抽出されることがまま見受けられた。心電図検査を施行する時に胸部誘導の電極を付ける位置に問題があると考えられ、心電図検査を実施する技師や保健師さんに「心電図検査における胸部誘導の付け方」【資料】を配布し、改めて確認して頂くようお願いした。ぱっと見、V1からV4までは結構くっついているのでペーストが連続してつかないように気をつけること、V4とV5は離れているのが正解、V4からV6は真っ直ぐ直線に並んでいます。
平成20年度
(9)心電図判定で、PR短縮のみでは抽出しない。
平成21年度
Brugada様心電図は、saddle back型はは、E(可)とする。Brugada症候群では、自律神経などの関与により、ST波高や形状が変化するため、saddle back型で本症候群を疑う場合は、できるだけ心電図を頻回に記録しcoved型の出現に注意する必要がある。失神の既往(夜間睡眠時に多い)本症候群の家族歴、または、突然死の家族歴がある場合は、1〜2肋間上でV1〜V3誘導で記録しcoved型へ移行しないか確認する。coved型は、高次病院へ紹介する。
(10)内科健診で、心雑音で抽出された場合は二次検診では心エコー検査を必須とする。(心雑音については、平成29年度に当委員会では取り扱わないことになる)
3年間(平成19年度から21年度)の検診のまとめ
学校心臓検診は、定期健康診断として義務づけられていますが、その検診方法や運用は各地域独自の方法で行われています。そのため、検診結果の誤りやばらつきが大きくなることが推測され、効率的かつ適切な検診が行われるためには、その精度管理が重要とされています。 学校心臓検診が精度高く実施されていれば二次検診が必要として抽出されるのは、全児童生徒の2〜5%とされており、たつの市の心臓検診においては、平成19年度の抽出率は8.43%と高めで徐々に低下はしてきていますがまだまだ高値で推移しております。また、二次検診受診率も重要であり、平成21年度は96.6%と養護教諭をはじめ学校の指導により未受診者数も減少しています。さらに、要管理者はほとんどはE(可)管理(健常児と全く同じ生活をさせてよい)であり、運動制限などの生活指導が必要な児童生徒は6.8%(平成21年度)に過ぎませんが、小児心臓外科手術の進歩により、今後は普通校に入学する先天性心疾患の術後の児童生徒が増えてくることが予想されています。たつの市の心臓検診でも毎年0.6〜0.8%の頻度で見られており(先天性心疾患は出生1000人に対して8〜10人発生する)もっとも多いのは心室中隔欠損症で、次いで心房中隔欠損症であった。後天性の心疾患では川崎病が多く、毎年、数名の児童がかかりつけ医療機関でフォローされている。不整脈関連ではWPW症候群が多く(当委員会では頻拍発作のないものもE(可)管理としているため)次いで、心室性期外収縮とQT延長症候群が多く認められた。QT延長症候群では、Schwartzら診断基準をBazett補正したQTcを用いていたが、心拍数の高い小児では偽陽性が多いとされています。心臓検診の目的として突然死を予防することは最も重要である。突然死は児童生徒10万人あたり、小学生で0.3。中学生で0.8といわれ、その原因は心臓にある場合が多く、心筋炎、不整脈、僧帽弁逸脱症候群、肥大型心筋症などが挙げられる。3年間の心臓検診では心筋症と診断された児童生徒はいなかった。(心筋症は児童生徒10万人あたり12と報告されている)たつの市の児童、生徒が安全で有意義な学校生活を送られるように、学校現場で児童生徒が倒れたときに、直ちに心肺蘇生を実施できる体制を普段から作っておくことも大切である。
平成22年度
(11)洞頻拍 心拍数<140は、抽出しない。
(12)洞性不整脈 抽出しない。
(13)上室性期外収縮の単発、散発では抽出しない。
(14)心電図判定で、ST低下の場合、二次検診に抽出するのは、水平型または下り坂(05mV以上)です。上り坂またはU型は抽出しない。
平成24年度
答申書 諮問事項 1次検診結果後、管理表が出来るまでの間のプール対応について
平成25年度
(15)心臓手術を行われた症例は、原則として「管理不要」ではなくE(可)以上の指導区分でフォローとする。ただし、手術を実施した病院や3次検診医療機関またはそれに準ずる循環器専門医療機関が管理区分を決める場合は、その限りではありません。
(16)指導区分「D」以上(A~D)に該当する症例についての対応 は、原則として2次検診医療機関で最終判断はせずに、3次検診医療機関またはそれに準ずる循環器専門医療機関に紹介してください。
平成26年度
(17)心電図判定で、異常Q波はコンピューター判定まかせに機械的に抽出するのではなく、委員自身の目でQ波の幅と深さ、パターンなどを確認して頂き(特に境界域)しっかりオーバーリードして判定お願いします。
平成27年度
(18)心電図判定で、平低T波は二次検診に抽出しない。
(19)心房中隔欠損症、心室中隔欠損症の自然治癒例は、管理不要でかまいません。
平成28年度
(20)QT延長症候群は、Fridericia-QTc≧0.45 で二次検診に抽出されています。(Bazett補正したQTcは、心拍数の高い小児では偽陽性が多いとされています)指導区分の判定は、失神歴、家族歴のないものは、コンセンサスが得られれるガイドラインができるまでは、心電図を再検査し、Fridericia-QTc<0.45ならば、「管理不要」と判定して頂いてもかまいません。もし、やはり長ければ、E 可で経過観察、かなり長ければ(>0.48)要精査にまわすというイメージで二次検診施設の判断に任せることとします。
(21)調査票の突然死の項目で、遺伝とは無関係の弁膜症の術後や心筋梗塞などの疾患によるものは、二次検診に抽出しない。
平成29年度
(22)心雑音 内科検診における心雑音については、平成21年度に、 内科検診を実施した学校医の聴診所見を尊重するとして、二次検診では心エコーを実施するとして運用してまいりましたが、来年度より心雑音の精査は学校心臓検診とは切り離して実施することになりました。
→平成21年度の協議事項「 (10)内科健診で、心雑音で抽出された場合は二次検診では心エコー検査を必須とする」の申し合わせ事項は削除する。
心雑音について
内科検診の胸部の聴診において、無害性雑音(胸骨左縁下部付近で聴かれる「ビューン」とか「ブーン」というような弦を弾いたような音楽様の音色で、収縮中期の持続時間の短いLevineⅡ以下の雑音)は、多くの児童生徒に聴かれます。また、過剰心音(Ⅲ音、Ⅳ音、クリック音など)も心雑音と紛らわしい聴診所見であるが、生理的Ⅲ音を心雑音と混同しないように気をつけなければならない。(拡張期雑音であれば、要精検)心雑音のある児童生徒をピックアップして学校心臓検診でフォローアップしていく体制については、以前より様々な問題点が挙がっていたが、解決出来ないままで続いてきた。学校医が行う内科検診と学校心臓検診との連絡調整がうまく行かないこと、養護教諭が作成する報告書への記載が統一されないこと、マラソン前検診などでの心雑音も後から心臓検診の報告書でまわってくること、以前に心雑音にて二次検診を受けて「異常なし」と判定された児童生徒が、その後も心雑音で二次検診対象者として抽出された場合、今回の心雑音が以前に指摘されたものと同じであるか違うのかの判定が困難であること(対応策として二次検診施設においては、診察所見として必ず、心雑音の性状(大きさ、最強点、時相など(例えば、心尖部にLevineⅡ度の収縮期中期に音楽様など)の記載欄を設けることで区別できるとしたが、実際には難しかった)また、実臨床の現場では、学校医によっては、偏ってたくさんの児童生徒が心雑音の二次検診対象者として抽出されることもしばしばあり、同時に学校医を対象に聴診の研修を行うなど心臓聴診の技術もブラッシュアップしていく必要性も指摘されていたがその精度管理は困難であること、学校医が心雑音ありとした児童生徒を二次検診医療機関で診察した医師が、心雑音なしと判定し、心エコーなどの必須といている精査も必要もないと判断されることで、仕事や学校を休んで受診された保護者とのトラブルになるケースが発生するなど、問題山積の状態であり、来年度より学校心臓検診と内科検診は切り離して行うこととし、内科検診の聴診での心雑音の対応は、他の疾患と同じように、学校医の判断で必要であれば、かかりつけ医、もしくは循環器科を標榜する医療機関等へ心雑音の精査として、当委員会を通さず(心臓二次検診結果報告書は使用しないで)直接、紹介して頂くことになりました。
(23)心電図判定で、J波は二次検診に抽出しない。
令和3年度
太子町も学校心臓検診事業に参加しました。